space debris
衛星衝突破砕モデル
米航空宇宙局(以下「NASA」と略す)は,金属を多用する1960年代の技術で製作された衛星を用いた衝突破砕実験を1992年に実施し,発生した破片の約10%を回収・分析して,衝突が原因である破砕により発生した破片を記述するNASA標準破砕モデルを2001年に公開した.しかし,近年の破砕(2007年1月に中国が老朽化した気象衛星を用いて実施した衛星破壊兵器実験や2009年2月に発生した米国通信衛星Iridium 33とロシア通信衛星Cosmos 2251との衝突事故)で発生した破片の特性がNASA標準破砕モデルでは記述できないことが報告されている.その理由は,軽量化のために多用されるようになった複合材,十分な電力を供給するために展開される太陽電池パネルおよび宇宙空間との熱輻射結合を小さくするために衛星表面を覆う多層断熱材から分裂した破片が関係していると考えられていた.この研究では,炭素強化繊維プラスチック板を主構造とする小型衛星模型,太陽電池パネルおよび多層断熱材を有する小型衛星模型を用いた衝突破砕実験を計7回実施し,約10,000個の破片を回収・分析して,破片の面積質量比分布において,金属を含む破片と複合材を含む破片が独立したふたつのピークを形成すること,多層断熱材から分裂した破片が,金属を含む破片と複合材を含む破片が形成するふたつのピークとは別に,新たにふたつのピークを形成すること,が明らかとなった.
スペースデブリ環境推移モデル
軌道環境の保全を議論するためには50年から100年以上といった長期に亘って軌道環境の推移を記述する計算モデルが必要となる.この研究では,静止軌道領域(平均運動0.9周回/日以上1.1周回/日以下,離心率0.1以下,軌道傾斜角20度以下)のスペースデブリ環境について,粒子衝突実験並びに数値シミュレーションの両面から研究を進め,独自に研究開発した静止軌道領域スペースデブリ環境推移モデル(GEODEEM)と,地球低軌道(高度2,000 km以下)のスペースデブリ環境について,宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」と略す)と共同で研究開発した地球低軌道領域スペースデブリ環境推移モデル(LEODEEM)を統合し,地球周回スペースデブリ環境推移モデル(NEODEEM)を研究開発した. 国際機関間スペースデブリ調整委員会が起案した研究である “An Assessment of the Current LEO Debris Environment,” “Stability of the Future LEO Environment,” “Benefits of Active Debris Removal in LEO” に参画するなど,NEODEEMは日本が世界的な議論に参加する際に日本独自のスペースデブリ環境推移モデルとして活用されている.
未知スペースデブリの効率的な探索方法
静止軌道領域(平均運動0.9周回/日以上1.1周回/日以下,離心率0.2以下,軌道傾斜角70度以下)では,内部エネルギーの解放に起因する破砕が,スペースデブリが増殖する主な原因と考えられている.発生する破片の中でも,運用中の衛星に周期的に接近する破片の発見が必要とされている.この研究では,破砕によって発生する破片の大きさ,面積質量比,質量および放出速度を記述する破砕モデルと地球を周回する人工天体の軌道を計算する軌道伝播モデルを組み合わせ,任意観測領域を任意時刻に通過する破片群の存在確率および移動量を予測することで,未知スペースデブリ探索の効率化を図る手法を静止軌道領域において研究開発した. 破砕事象の規模並びに時刻が特定されていない場合でも,定性的に観測計画を立案することができることを実証した.また,研究に利用した光学望遠鏡の観測限界より明るい未知スペースデブリに対して追跡観測・軌道決定を実施し,連続画像上の未知スペースデブリの予測移動量により起源同定が可能であることを示した.さらに,連続画像上の未知スペースデブリの予測移動量に基づき連続画像を重ね合わせることで,光学望遠鏡の観測限界より暗い未知スペースデブリを検出することに成功した.
相乗り小型副衛星を利用した宇宙環境計測に関する研究
「デブリ環境の“その場”認識」を意味する英語の頭文字を並べたIDEA(In-situ Debris Environmental Awareness)計画では,微小デブリ(サイズ100 umから2 mm程度まで)の衝突により薄膜に形成される孔のサイズを一定時間間隔で計測するスペースデブリモニター(JAXAが,有限会社QPS研究所と株式会社IHIの共有特許に基づき研究開発した.以下「SDM」と略す)を搭載した小型副衛星を軌道上に配置する.この研究では,既知の人工天体を参考に,SDMに衝突する人工天体の軌道を調査・分析し,SDMに衝突する人工天体の軌道に当てはまる簡単な拘束方程式を見出した. 拘束方程式の誤差要因を解析し,実際の計測に拘束方程式を適用するためのミッション要求を明らかにした.また,この拘束方程式を応用することで,破砕の起源を推定できることを理論的に明らかにした. IDEA計画の意義・理念に共感した株式会社アストロスケールは,オーエスジー株式会社の支援を得て,この研究の成果に基づき小型副衛星IDEA OSG 1を開発・製造し,平成28年度下半期に打ち上げる予定である.
(文責:花田俊也)
協力研究機関
高校生のための「超」教養講座
No.20「スペース・デブリがもたらす脅威」~宇宙はゴミであふれている
花田俊也 (2010/07/14公開)